読んでみた、わたしの感想をひとことで言うと・・・
「なるほどね~」
です。
思っていた内容とは少し違ったけれど、これはこれで面白い。
乃が美の食パンと、そこに関わった人たちの、いわゆるサクセスストーリーなのですが、難しい言い回しがほとんどなくて、全体的な流れを簡単にわかりやすくまとめてあるので読みやすい部類の本だと思います。
文章もやわらかくて はなし言葉が多いところも読みやすく感じるポイントかな。
そんな【奇跡のパン】の感想を、この記事では書いています。
「乃が美の食パンってこうやって出来たのね」がサクッとわかる本なので、興味がある方はちょこっとのぞいてみてね。
※内容のネタバレもあります。
サスペンス小説で、ドキドキしながら犯人を当てる・・・とかではないので。
ネタバレを知っても十分楽しめる本なので、ネタバレしちゃうよー
目次
【奇跡のパン】著者 阪上雄司
「乃が美の食パン」について書かれた本【奇跡のパン】
著者は、乃が美のパンを考え出して、作りあげた、乃が美の代表、阪上 雄司(さかがみ ゆうじ)さんです。
発行/株式会社KADOKAWA
初版/2018年11月19日
【奇跡のパン】を読んでみた感想
表紙はブラックで、焼きたて食パンを両手でえいっと割っている写真。
アツアツの湯気までみえます。おいしそう。
【奇跡のパン】は200ページくらいの本だったので、わたしは2時間ほどでサクッと読めました。
乃が美の食パンは、
- どんな人が
- どんなきっかけで思いついて
- どんな苦難をのりこえて
- どうやって全国的にヒットしていったのか
が、すべて書いてある本でした。
ヒストリーや裏話ネタが好きで、乃が美の食パンも好きな人なら楽しく読めると思います。
とくに、乃が美の店舗の全国展開に関しては、戦略的な流れが事細かに暴露されているのでおもしろい部分です。
わたしはもともと読書が大好きな人間なので、2時間ほど集中してサクッと読み終えましたが、普段読書をしない人でも、少しずつ時間をみつけて読んでいくことができる読みやすい本のはず。
ただ、冒頭にも書いた通りに、個人的には「思っていた内容とは少し違う」部分もあったので、まずはちょっとそこの部分からご紹介。
【奇跡のパン】はパンの本?
【奇跡のパン】は、読みやすい文章で、章分けも細かくされているので、順番に読み進めていきやすい本ではあります。
だけど、読んでいくうちに、
「これ・・・パンの話っていうか、阪上さんの話も多くない?」
という、ちょっとした違和感が・・・。
わたしがこの本を最初に読もうと思ったのは、「乃が美の食パンについて、深く知ることが出来そう」と思ったからなのですが。
実際に読んでみると、食パンの話が半分、その食パンを作るために奮闘した、阪上雄司さんのお話が半分くらいと、阪上さんの自伝本的要素がけっこう多かった!
もちろん、乃が美の食パンを作るためには、作り手側の努力の流れを知るのも大切なことなので、書かれていて当然ではあるのですが・・・。
その「当然」を考慮したとしても、予想以上に、阪上さんの生い立ちや、家族、父親、学生時代の話、たずさわった職業、そこで出会った人たちの話など、著者の過去の(乃が美以外の)苦労話も多く組み込まれている印象でした。
なので、
あれ?この本って【奇跡のパン】の本?それとも阪上さんの自伝本?
と混乱をまねく事態に。
この本のタイトルが、【奇跡のパン】ではなく、もう少しビジネス寄りのワードを使ったものだったら、また違う第一印象だったかもしれませんが・・・
タイトルに、【奇跡のパン】とあるがゆえに、
「奇跡のパン(乃が美の食パン)についての本を読むぞ!」と思って読み始めてしまって、その結果、あれれ?となってしまったわけです。
この、『タイトルや表紙から想像できるもの』と『中身』がきちんと一致していれば、もっと大幅に心地よい読後感になったかなと思います。
【奇跡のパン】は誰におすすめしたい本なのか
前述したとおり、【奇跡のパン】は、パンの話もさることながら、阪上雄司さんの自伝的エッセイの要素も強い本です。
阪上さん自身も、本の最後にこう書いています。
この物語は、全然カッコよくない人生を歩んできた1人の商売人が、幸せをつかむために本気を出す話。
思いつくがままに、起こった出来事をつづったのがこの本だ。
この本を、新しいことに挑戦しようとしている方、今、何をやっても上手くいかずに八方ふさがりの方、そこからなんとか脱しようともがいている方、そして、奇跡を信じるすべての方に、捧げます。
そんな本の中に、乃が美の食パンを作りはじめるまで、阪上さん自身は「パンの知識がゼロだった」と紹介してあります。
わたしも、本を読む前から、この部分の情報だけは知っていました。
パンの知識がまったくなかったからこそ、常識にとらわれない配合で、まだこの世になかった新しい食パンを作ることができたんだ!と思っていました。
いえ、「常識にとらわれない」というところだけは当たっているのですが。
・・・ですが!
この阪上さんは、パンの知識こそなかったものの、こと経営に関しては、それまでの人生において十分な経験や知識があり、社長として手掛けた居酒屋さん、焼肉屋さん、携帯ショップ、などなどが多くある、いわゆる「経営者側の人物(すでに成功している人物)」であるということが、本を読み進めるうちにわかってきて、
その結果、この乃が美の成功は、
「ごくごく普通の、何のとりえもなかった一人の男が、こころざしひとつで大成功した奇跡のお話ではない」
というのが、読み手にとってネックになってしまって、やや、感情移入しにくい・・・。
若くして社長になるのって本当に大変だと思うし、そのために阪上さんだってものすごーーく苦労、努力をしてきたんだろうというのは分かるのですが・・・
それでも、読んでいる方からしたら、
「何度も社長として成功している人が、またひとつ新しいパン屋さんを成功させただけの話」
としてうつってしまいやすいんですよね。
普通に考えて、この本を読む人のほとんどが、現時点で「社長」じゃないと思うんですよ。
なので、この本を読んでも、「よし、じゃあ自分も今からなにかをはじめてみよう!」という、きっかけの本にはなりにくい。(気がする)
社長になるだけの器がまず自分にはないから。と思って、本を読むだけで終わってしまう。
いい本なんですよ!
読みやすく、手を出しやすい、いい本。
乃が美がどうやって成功していったかがすべてのっている本。
なので、【奇跡のパン】は、できれば今現在、何かしらの商売をしている「経営者」の方にこそ、おすすめしたい本だと思います。
経営者側の立場だったら、【奇跡のパン】から学ぶことは多くあると思います。
とことんお客さまファーストで考えて、まわりの人たちとのご縁も大切にして、その結果、1日に5万本売れる食パンが出来上がった、乃が美のこのサクセスストーリーの裏側は、そういう目線で追っていくと、とてもとてもおもしろいんじゃないのかな。
【奇跡のパン】の読んでほしいお話
ここまであれこれ書きましたが、乃が美の食パン、乃が美を作ってくれた阪上さん、そのほかたくさんの協力者の方々には、わたしは本当に感謝しています。
だって、乃が美の食パンが出来ていなかったら、(もしくは、出来ていてもおいしくなかったら)日本にここまで高級食パンは増えていかなかったからと思うから。
なのでここからは、【奇跡のパン】の中の、「ここおもしろかったよ」のポイントを紹介してみたいと思います。
【奇跡のパン】=高級食パンではない
実は、乃が美はもともと、高級な食パンを作ろうとして「生」食パンを作ったわけではない。
ということが、本を読んだことでわかってきて、「そうなんだ!」と驚いたポイント。
ただ、おいしい食パン、今までになかったあたらしい食パンを作ろうと考えて、その結果、出来たものが800円という高級価格帯の食パンになったというだけのこと。
「食パンに出せる金額は、せいぜいこのくらいの金額」いう日本人の考えを大きく変えたのが乃が美です。
きちんとおいしいものさえ作れば、商品は売れる。
乃が美はすごい企業だ。
なので、それを目の当たりにしたほかの人たちが、思わず真似をしたくなる気持ちも・・・うん、わかります。
この「真似っこ」問題に関して、阪上さんも本の中で触れていました。
一つの成功例が出た分野への参入自体は、まったく悪いことだと思わない
商売とはそういうものだ
だが、味の前に、高級な雰囲気をとにかく出そうとしているかのように見える
これ、わたしはかなり深い言葉だと思いました。
ただひたすらに「良いもの」を追求した結果に出来たのが、乃が美の食パンで、
そこにかかったコストや付加価値を考慮すると、800円という値段になったというだけのこと。
それが今では、
「食パンはおいしければ高くても売れる」
「1,000円でも売れるのなら、高級な材料を使って作ってみよう」
と、逆から計算されて、売値ありきで作られている。
こういう逆転現象は、きっと食パン業界以外にも、たくさんあるんだろうなあ・・・と思ったりもします。
商売とは、深い・・・。
「乃が美」という店名の由来
この本のなかには、店名である「乃が美」の由来についても書かれていました。
乃が美の公式サイトにも、一応の由来はのっているのですが、
⇒【公式】乃が美について / 高級「生」食パン専門店 乃が美(のがみ)
そこをさらに巻き戻して、そもそもなぜ「のがみ」という言葉を選んだのか、そこに「乃が美」と漢字をふったのはなぜなのか、「乃が美」の『が』がひらがなのままなのはなぜなのか?
が、【奇跡のパン】には、すべてのっています。
わたしが確認したかぎりでは、今現在、インターネット上には、この由来について正確にのっているページはありません。
なので、この由来をさがすために、【奇跡のパン】を読んでみるのもおもしろいかもね。
少しだけネタバレをすると・・・
「のがみ」の『がみ』は、阪上雄司(さかがみゆうじ)の『がみ』からとっているんだって!
「年越し『生』食パン」という発想
乃が美が売っている食パンは、日常の暮らしのなかで食べることができる、ちょっとだけいい(高級な)食パン。
それでは、年末やお正月に食べることを考えるとどうなのか?
日本人は年を越す準備が大好きで、お正月も大好き。
その、「お正月」という特別な、非日常のシーンに、おせちだけではなく、あたりまえのように乃が美のちょっとだけいい食パンを添えることはできないか。
お正月料理に飽きたときの自宅用でもいいし、年末のごあいさつ、年始のごあいさつに、乃が美の高級『生』食パンを。
年末だからいつもよりも多く売りたい、さばきたいという気持ちからではなく、
日常以外の、非日常の年末年始にも、乃が美の食パンで喜んでもらいたい。
せわしない年末にも、売り切れることなく確実に、購入を希望するお客様のもとへとお渡ししたい。
そんな思いから、乃が美では毎年12月に入ると、年越しそばならぬ「年越し『生』食パン」の予約を受け付けるようになったそう。
お客さまファーストが徹底して根付いている 乃が美の発想が、本当におもしろい!
さいごに
読んだ本のレビューって、書いていて楽しいけれど、想いが募りすぎて、文章が長くなってしまうのがネック・・・。
でも楽しいから書いちゃうー
「乃が美」「乃が美」「乃が美」と散々連呼したので、乃が美の食パンをあらためて食べたくなりました。
また近いうちに買ってきて食べようと思います。
日本に「高級食パン」というおいしいものを広めてくれた乃が美には、心から感謝しています。